松本信幸が債権者に被らせた被害は莫大だった。債権者が松本と知り合い、松本が債権者の会社に出入りするようになったのは40年以上も前のことで、当時、松本が経営していた会社が倒産の危機にあると言うので、債権者が4000万円を貸したのが始まりだった。「松本は『香港での取引で払う』と言い、次いで『二人の弟から借りる』という話をし、さらに『実家の家を売って返済します』とも言ったが、全部が言葉だけで返済の実行は無く事業計画の成果など一つも無かった。案件を持ち込むたびに松本は嘘の報告を繰り返していた」と多くの関係者は言う。松本信幸が債権者との連絡を絶って所在を不明にしてから、すでに5年前後が過ぎている。債権者に多くの詐欺を働いて、そのたびに謝罪文を書きながら、一向に改めることもなく、「お詫びの印に、社長の会社を手伝わせて下さい」と言いながら債権者の会社に出入りするようになって、しばらくすると、松本は会社の金に手を付け始めた。総額で言えば80万円になるが、どのような事情か松本は銀行のキャッシュカードを使って、駅から会社に通う途中のATMで金を引き出しては着服するという窃盗を繰り返したのである。債権者は業務を任せていた部長に「松本には1万円以上は触らせてはいけない」と指示していたが、金庫に保管されている銀行の通帳とキャッシュカードは、金庫の鍵の所在さえ分かれば、部長の目を盗んで金庫を開け、キャッシュカードを取り出すことを松本は平然とやるような人間だった。部長の鍵の管理が甘すぎたとしか言いようがないが、松本は窃盗が発覚することを恐れ、その前に姿をくらませてしまった。松本は好き放題に悪事を働いていたが、姿をくらます前までは「逃げるようなことは絶対にしません」と言っていた。債権者から初めて4000万円を借入してから40年以上もの間、松本は金銭面で多くの無理を聞いてもらいながら、どれだけの損害を与え続けたか、よく分かっているはずだ。それが分かっていなければ、何枚も書面を書く訳がない。それだけ債権者に迷惑をかけてきたことを、松本は身に染みて認めてきたのだ。
平成19年頃から約7年間にわたって、資産家秋田義雄の長男義行との関係を債権者に持ち込んで、債権者から寸借を繰り返したが、その資産家の長男が架空の人間で松本による作り話であることが発覚すると、今度は知り合いの反社会的勢力の男に頼んで、債権者を亡き者にしようとする暴挙にまで走った。この時には、東京近郊の山中に穴を掘り、債権者を殺害した後でバラバラにして埋めるという計画を事前に練っていたともいうが、債務逃れのために殺人計画まで発想する松本という人間は異常というか恐ろしさを感じさせる。松本が債権者に持ち込んだ資金計画は資産家長男との共同事業という触れ込みだったが、何もかもがウソだった。松本は資金計画が嘘であることが発覚するたびに債権者に「謝罪文」を書いていたが、その数は9件にも及んでいた。その中の謝罪文は、一部になるが、以下の通りだ。「(返済を猶予してもらうための)時間稼ぎの為に平成19年から平成26年にわたり、世田谷区代田在住(日本では有名な資産家)の秋田義雄氏の名前、その息子として秋田義行なる全く存在しない人間の名前で何十通もの偽造書類(支払約定書)を提出し、又、ダンボール1箱に1000万の束で2億円分を入れ、そういう箱を何十個(総額75億円)も作り、表面の1枚だけ1万円札を使い写真を撮って、さも大金が手元にあるというトリックを使ったり、大王製紙との接触により香港での運用を本当のように見せかけました」ちなみに松本の嘘が発覚するまでに、会社経営者に差し入れた金銭消費貸借借用証書に記された債務の額面は370億円とか500億円といった途方も無い数字ばかりだった。
松本が持ち込んだ案件は挙げればキリがないほどで、「国債の還付金」や「フィリピンの金塊」「アメリカのカジノ事業」などがあったが、松本はその度に秋田義行の名前を出し、また報酬を受け取る話もして信用させ、活動資金や事業資金を名目にして債権者から借金を重ねていった。リクルート株の大量購入もその一つだったが、それに平行して松本が持ちかけていたのが「公営競技施設株式会社 ウインズ木更津への融資4億5000万円の仲介」や「聖マリアンナ病院650億円の売買 三菱商事とコンタクト中」「浅草タウンホテル30億円の売買商談申込」などの他に数え切れないくらいの案件を持ち込んだ。口からでまかせとはいえ、よくもそれだけの作り話を吹き込んだものだ。松本という男は、一見すると真面目そうで地味に見えるが、詐欺を常習的に働くことをやめられない、まさに根っからの詐欺師というほかない。ちなみに松本が債権者に吹き込んだ“儲け話”は、多くのブローカーがたむろする喫茶店があり、そこでさまざまな情報を仕込んでいた、と松本は債権者に打ち明けたという。
債権者は令和2年4月に松本信幸と連帯保証をしている妻に対して債権の一部請求という形で貸金返還請求の訴訟を起こした。しかし、松本は住民票を置いている住所地には住んでおらず、しかも妻が病死していたことも判明したことから、妻に変わって長女のめぐみと長男の塁に被告を変更する手続きが取られ、松本本人とは裁判が分離したという。松本は、逃げ回るうちに大事な家族を失っただけでなく、自分のしでかした不始末を家族全員に負担させようとしているのだ。
2人の子供は、母親の死に伴う相続放棄の手続きをしていると裁判所に通知したが、母親が連帯保証をしていた事実は、死亡する以前から2人とも承知したので、手続き上でも認められることはない。しかも、娘と息子は松本の債務の存在を承知していただけでなく、松本が債権者から騙し取った金が自分たちの生活費や教育費に使われていた事実を十分に承知していた。それだけに、その責任を十分に自覚すべきなのだ。
この裁判をきっかけにして松本がしっかりと債権者はもちろん、子供たちとも向き合わなければ、問題は絶対に解決しない、どころか一層深刻になるだけだ。それを松本自身は何処まで分かっているのか。裁判が開始されて以降、娘のめぐみと息子の塁も、委任した弁護士を通じて松本に対し裁判に出廷するよう強く要請したが、松本は応じなかったようだ。債権者が松本に対して裁判に出廷しなければ刑事告訴も辞さないという意思表示をしていたにもかかわらず、それさえ無視したものとなった。松本には刑事事件化する事案がいくつもあるのに、出廷して謝罪の意思さえ見せないのであれば、債権者が本気で刑事告訴の手続きを進めるのは目に見えている。松本が、このまま何もかも放置して責任を果たそうとしないならば、本当に娘と息子に自身が負った債務の責任を負わせることになる。そうなったときに娘も息子もどれだけ松本を恨み、憎むことになるか。娘と息子には関係者が繰り返し連絡を取ることになるかもしれず、そうなれば日常の生活もままならなくなるのは必至だ。松本は父親としての責任を最低限でも果たすべきではないのか。ここまで謝罪の言葉すらない松本のような詐欺師はいないが、いつまで地獄をさ迷う積りなのか。詐欺師の松本は、もはや刑事告訴から事件化する事は免れない。債権者の恩情で与えられた猶予期間はとっくに過ぎている。それに、賠償責任は子供達に受け継がれ、最悪の人生の結末を迎えることになるだろう。もはや、このような状況では、松本の過去40年にわたる悪事の詳細を明らかにしていくことになるが、そうなれば本当に取り返しがつかなくなる。(つづく)