和解書は強迫・心裡留保に当たらない 鈴木義彦の2通の手紙が裏付ける

鈴木義彦は和解協議が行われた後の平成18年11月下旬から同12月初旬にかけてA氏に2通の手紙を送っている。

10月16日にA氏と西、鈴木が「合意書」に基づいた株取引の利益分配の履行をめぐって協議を重ねた結果、鈴木がA氏と西義輝にそれぞれ25億円を支払うことを約した「和解書」が交わされた。A氏にはこれとは別に2年以内に20億円を支払うとしたが、それは和解書には記載せず、鈴木は「約束は守ります。社長、私を信じて下さい」と口頭で約束していた。

和解協議で、鈴木は「合意書」に基づいた株取引を頑なに否定したが、鈴木の指示で株の売り抜けを全て任されていた紀井義弘が、西との面談で株の利益総額を始め、鈴木が利益の大半を海外に流出させてきた実態等の真相を語っていた事実が明らかになったことで、鈴木は遂に折れる形となり、冒頭に挙げた金額を支払う約束をA氏と西にした。その結果、西が予め用意した「和解書」にA氏と西、鈴木がそれぞれ署名、指印したのだった。

鈴木がA氏に送った手紙は、この支払約束を留保撤回し、代理人を新たに立てるから、その者たちと交渉して欲しいというあまりに身勝手な内容だった。

「先日帰国しましたが、本日再度、出国せざるを得ません。当分の間、帰れません。理由は、国内で問題が発生しました(詳細は、青田氏から聞いて下さい)。帰国前から、青田氏から多少の情報は得ていたのですが、国内から海外へ切り口を付けようと本気のようです。誰がやったかは確認できませんが、私は西しかいないと思っています。(略)こんなことで本当に今回の件がキッチリ話がつき終わるのでしょうか?」

そして非難の矛先が紀井に向かう。

「紀井もあの日以来逃亡し、私一人では仕様もありません。(略)私は、社長が西、紀井と共謀しているとは思っていませんので、(略)是非、協力、再考して下さい」

鈴木は、利益の隠匿が国税当局にバレて、問題が生じた。その原因を作ったのは西しかいないと決め付け、和解書の履行に疑問をぶつけ、和解協議についても、

「紀井の卑劣な裏切りに動揺し、3年間に及ぶ西の全てがウソの作り話を、ハッキリさせず、西の罠にはまり、安易に和解してしまったこと、金額についても、現在自分が、全資産を処分して出来うるギリギリの数字を言ってしまったこと(現在の状況では非常に難しい)、また、紀井が言っている数字は、表面上の数字であり、損、経費、裏側の事情が全く分かっていません」としつつ「私しか本当の利益の数字は分かっていません」と自分に都合のいいウソを並べている。そして「今回の件も話がほとんど漏れており、どちらにしても、西と紀井がいる限り、秘密保持は出来ません。何とか紀井本人を捕まえて、第三者を入れ、キッチリ紀井から本当の事情を全て聞きたいということ」とまで言っているが、鈴木は利益を独り占めにして隠匿している事実が紀井の暴露によってどこまで真相が明らかになっているかを知りたいと言っているに過ぎない。

鈴木は、手紙でも「合意書」に基づいた株取引は宝林株のみであった点を認め、さらに鈴木が株取引で上げた利益を不正に海外に流出させていたことや、紀井が証言した利益総額約470億円が事実であることを概ね認めている。しかし合意書については、

「よく振り返って考えると、何の株を買うとか、どのくらいの数量を買うか等、株に関することで、3者で話し合いをしたことが一度も無いということ。(西と2人でも一度も無い)また、私一人で立案し稼いだ資金を、国内外の移動という、現在もっとも難しいことで、なぜ、一人だけでやらなければいけないのかということ」

と言っているが、「合意書」を交わしてA氏に株価の買い支え資金を出させておきながら、西に嘘の言い訳ばかりをさせてA氏を蚊帳の外のような状態に置いて、情報の遮断を策したのはほかならぬ鈴木自身だったではないか。

中でも「私一人で立案して稼いだ資金」とは、よく言ったものである。宝林株800万株の取得は西の交渉によるもので、もちろん買取資金はA氏が出した。またその後に宝林株を高値で売り抜けるための買い支え資金もA氏が出した。もし鈴木が立案したと言うのであれば、それは、利益を密かに海外に流出させ、タックスヘイヴンのプライベートバンクに隠匿することくらいではないのか。

鈴木は和解協議での支払約束で損切りを目論み、あわよくば反故にしようとして、必死に西と紀井を悪者している。それは「私を陥れるため作り上げた香港での殺人未遂事件は、考えれば考えるほど、頭にきて眠れません。到底許せることではありません。第三者を入れ、ウソだった、作り話だったと判明させなければ、納得がいきません」と言い、さらに「(紀井は)話し合い当日に全ての仕事をほっぽり出して逃亡していますが、私の被害が多方面で非常に大きいということ。また、やり方が非常に卑劣だということ。また、紀井は、国内外の関係者数名に、私が殺人を犯すような人なので、私の所を辞めたと言っています」と書き連ねて自分は被害者であると強調している。

鈴木は、こうした独りよがりの理屈を根拠に「私がした約束は、西の脅しと騙し、紀井の裏切りにより、正常な判断を奪われてしたもので、私を拘束するようなものでは有り得ない」と主張することに尽きた。そして、今後の対応について「私のことをよく理解してくれている青田氏と、弁護士の平林先生に、国内における全ての問題の代理人として全面委任することにしました」と言って、鈴木自身は身を隠してしまった。

「今後、全てが解決するまで、私がこの件で直接話をすることはありませんし、金を払うこともありません」

鈴木が狡猾と思われるのは、A氏だけは自分のことを理解している、とA氏に思わせるような流れを作っていることではないか。それを窺わせているのが、末尾の件である。

「私は、海外での資金作りに最大限、全力投球するつもりです。また、現状それしか出来ません。(海外口座を作ることは検討しておいて下さい)何とか私のこの真意をよく理解して戴き、世の中の道理に適う形、納得いかない点の解決に協力してもらい、和解金、支払い方法等の再考をお願いします」

A氏は、鈴木の手紙を読み、「この問題は当事者同士で話し合いをしなければ解決しない(代理人や弁護士が同席するのは構わない)」という趣旨の手紙を平林弁護士経由で鈴木に送った。しかし、鈴木は頑なに代理人を立てることに固執し、自身は姿を現そうとしない。これも鈴木の常套手段に違いない。

A氏の手紙を読んだ鈴木が送ってきた2通目の手紙ではさらに鈴木の独りよがりの理屈が強まっていた。ここでも西と紀井を悪者にして、

「話し合いの後、西が紀井に話し、紀井が私の関係者にTELをして、香港の件を含め、今回の件の話をしたことです。海外の資金は自分のものであって、自分のものではありません。関係者には事情を説明して、各方面対応してもらうしかないのです。当然、関係者は、このような件を一人で対応させるようなことはさせません」

と言って「平林先生の力と青田氏がフォローしてくれなければ、完全な形で資金(現金)を受け渡すことは難しいのです。また、私が逃げ隠れするとか、裁判をするとか、話を壊すつもりならば代理人等立てません」と、代理人を立てることの正当性を強調した。鈴木は和解書での支払約束を必ず守るとして交渉を継続すると言いながら、代理人となった青田と平林の両人は、交渉の現場を解決ではなく決裂、混乱させることが目的でしかなかった。それが鈴木の本音であったことが分かる。

「合意書とか、和解書とか、そんなものは関係ないのです。社長には過去たいへんお世話になり、人物的にも魅力を感じ、男としても一目も二目も置いていました。私にはそう思える人物が過去ほとんどいませんでした。それと100歩譲って西がJASのきっかけを作ったということです。JASの件では、双方に資金を渡しているはずです。西が一人だったら、何と言おうが、何をしようがびた一文渡しません。社長が居るからやろうという気持ちを維持しているだけです」

鈴木がA氏に送った2通の手紙の内容は、その後の裁判でも強迫と心裡留保に誘導するための流れを作っているということも考えられるだけに、平林が少なからずの入れ知恵をしている可能性が高かったのではないか。この2通の文面からも分かるように、品田裁判長が判決で和解書を無効とする根拠に挙げた強迫と心裡留保は全くの誤りである。鈴木は和解書で約束した支払いは必ずするとしている。ただし、これが鈴木の常とう手段だろうが、可能な限りの減額を狙っている。そうであれば、和解協議の場で強迫があった訳はなく、まして心裡留保に当たるはずもないから、品田裁判長はとんでもない過ちを犯したことになる。