タックスヘイヴンについて調べて分かったこと

読者より「鈴木義彦の記事を読んで、タックスヘイヴン(租税回避地)に興味を持ち、調べてみました」という投稿が寄せられた。少し長くなるが、参考になると思われるので全文を掲載する。

パナマ文書には、オフショワ(租税回避地)金融センターを利用する21万4000社の企業の株主や取締役などの詳細な情報が書かれている。これらの企業の関係者には、多くの著名な政治家や富裕層の人々がおり、1970年代からパナマの法律事務所によって作成され、世界80ヶ国・107社の報道機関に所属する約400名のジャーナリストが分析に加わった。関連企業・個人リスト含めて20万件超の情報がウェブサイトで日本時間2016年5月10日午前3時に発表された機密文書である。他に2017年にはイギリスの法律事務所から流失した「パラダイス文書」がある。

タックスヘイヴンとは、課税が著しく軽減、ないしは完全に免除される国や地域の事であり租税回避地とも低課税地域とも呼ばれる。フランスやドイツ、アメリカでは税の天国、税の楽園を意味する「パラダイス」と言われている。英語のタックスヘイヴンのヘイヴンは、日本での意味は「避難所」であって楽園や天国を意味するものではないらしい。

代表的なタックスヘイヴンは、スイス、シンガポール、香港、バハマ、ケイマン諸島、バージン諸島、ルクセンブルグ、ジャージー島などでオフショワ金融センター(国際金融取引の拠点となっている地域)も含む。2013年時点ではタックスヘイヴンにある3分の1がスイスに保管され、3分の2がその他のタックスヘイヴンにあると言われている。

アメリカ合衆国のデラウェア州も「租税回避地域」であり、人間の住居者よりも多くの企業が存在しており、2016年4月の集計では、人口89万7934人に対し、企業数は94万5326社も存在し、一部の税制からすると「世界最悪のタックスヘイヴン」と言われている。また、デラウェア州ウィルミルトン市北オレンジ通り1209番地にある2階建のビルには31万社が存在し、ペーパーカンパニーの代表者名義は弁護士が多く、設立に実質所有者の情報は不要で州政府も把握出来ず秘匿性が高い。

一部のタックスヘイヴンでは、本国からの取り締まりが困難だという点に目を付けた悪質な利用対象にされる場合がある。例として麻薬や武器取引などの犯罪・テロリズム行為のための資金を隠匿する場所として、暴力団やマフィアの資金や第三国からの資金が大量に流入していると言われている(マネーロンダリング)。2007年の世界金融恐慌では、金融取引実態が把握し難いことが災いし、損失額が不明瞭化、状況の悪化を助長したとして批判されている。

タックスヘイヴンがブラックボックスである限り、公正な企業活動が行われているか、非利用者からの検証も利用者側からの実証も共に不可能である。税率の低い国や地域に実態のない子会社を設け、利益を移して税負担軽減を目的に使う企業も少なくない。

国際金融取引を活性化させる目的で、一定の減税措置が取れるだけでなく外国資本企業は登記費用のみで、法人税がかからない会社設立方法・通貨決済方法が設けられることは珍しい事ではない。

タックスヘイヴンによって税収の減少が続くと国家の債務が増え、債務が増えると国債の利回りも増える。タックスヘイヴンは課税統治権を放棄して超富裕層や多国籍企業を引き寄せる。これは国家主権の商品化ともいえる。また、タックスヘイヴン内に住む人々の不公平等も問題となる。オフショワ金融に関わる人々と、そうでない製造業、建設業、運輸業などに関わる人々との格差が拡大する。所得格差によって若い世代の教育や就職にも格差が出来ている

主要各国は、タックスヘイヴンを利用した租税回避に対してタックスヘイヴン対策税制を整備して対抗しようとしている。しかし、税の抜け穴の根絶には程遠い状況である。それと言うのもタックスヘイヴンにある欧州・米国の大銀行を中心とする口座の大半が機関内の匿名口座になっていたからである。

経済協力機構(OECD)では、G20加盟国と共に国際的な取り組みとして(あ)金融・サービス等の活動から生じる所得に対して無税としている又は名目的にしか課税していない事に当てはまり、(い)他国と実質的な情報交換を行っていない事や(う)誘致される金融・サービス等の活動について、自国・他国において実質的な活動がなされる事を要求していない事という3点に該当する非加盟国・地域を「タックスヘイヴン」と認定し、有害税制リストに載せている。OECDはG20の加盟国と協力してこうした政策を広げようとしている。

タックスヘイヴンの仕組みは、タックスヘイヴンに会社を設立(登記)して、その後、得られた利益をタックスヘイヴンに設立した会社で挙げた形にして本国における税の支払いを免れることで、法人税を大幅に削減できる仕組みである。

タックスヘイヴンとされる国や地域は、土地が狭く目立った自国産業が無い場合が多く、税率を低くすることで海外からの資金の流入を図っている。

これらの国や地域のメリットとしては、タックスヘイヴンとして海外から企業が集まる事で、会社設立する時の手数料収入や、手続きに訪れたビジネスマンたちが現地で使う飲食、宿泊費などが得られる。また、資金が集まれば金融機関が進出してきて様々なサービス分野で雇用も生まれ、経済が潤う事になる。

もともとタックスヘイヴンは秘匿性が高く、情報も厳格に守秘されてきた。各国の法律にもよるが、納税者の個人情報や口座・預金情報などが外部に流出することがなかった。そのため、マネーロンダリングや資産隠しにも使われていたという側面がある。しかし、パナマ文書やパラダイス文書の存在によってこれらの情報が公になった。

パナマ文書やパラダイス文書とは世界中の政治家や富裕層がどのようにタックスヘイヴンを利用したかを暴いた文書である。前号にも書きましたがパナマ文書のネーミングはパナマの法律事務所から流失したことに由来している。2015年に匿名の人物が南ドイツ新聞社に提供し、ICIJ(国際調査報道ジャーナル連合)が世界の報道機関に公開した。2017年に公開された第2のパナマ文書と言われるパラダイス文書はイギリスの法律事務所から流出した。パナマ文書と同様にICIJが公開したもので、世界各国の著名人約120人のタックスヘイヴンへの関与が記載されている。

※ICIJ(国際調査報道ジャーナル連合)とは、世界のジャーナリストが共同で調査報道を行うためのネットワークである。1997年に発足、現在70か国200人以上のジャーナリストが参加し、コンピューターの専門家・公的文書の分析家・事実確認の専門家・弁護士らが協力していてワシントンD・Cの事務所にスタッフ20人が常駐している。活動資金は個人・団体からの寄付金で賄われ、政府からの資金は受けない。

税率は、タックスヘイヴンの国が独自に決めることが出来、たとえゼロでも違法ではない。タックスヘイヴンは合法的に「節税」ができる国や地域だと言える。しかし、巨額の利益を挙げている大企業が納税をしなければ、その分税収が失われてしまう。財政悪化に悩む各国は、タックスヘイヴンへの対応を厳格化している。自国のルールに則って税金を納めている側から見ると、莫大な富を持つ富裕層が納税を回避している事は受け入れ難いだろう。政治家の場合はより深刻で、納税を指導する立場にありながら課税を免れていたら、国民に対して示しがつかない。必ずしも違法とは言い切れないが、国民の反発が大きく報道されたため、パナマ文書に名前の載った政治家が辞任に追い込まれたケースもあった。

この様にICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)という世界的な組織が尽力した結果、我々もタックスヘイヴンを知る事が出来た。今後はタックスヘイヴンへの各国の対応が厳格化の方向に進んでいく。タックスヘイヴンを利用している法人や個人の富裕層は戦々恐々としている事だろう。

オフショワとは金融用語でタックスヘイヴン(租税回避地)と同義語として用いられている。よく知られている地域としては、香港、シンガポール、ケイマン諸島、BVI(ブリティシュ・ヴァージン・アイランド)等が挙げられるが広義の地域としては世界でおよそ20ヶ所以上の地域がある。オフショワカンパニーとはタックスヘイヴンに設立した会社の事だが、当然、それは租税の回避が目的である。その租税回避対抗策としてタックスヘイヴン対策税制がある。

※タックスヘイヴン対策税制とは、わが国の内国法人等が事業上の合理性   がないにもかかわらず、租税負担の軽い国や地域に所在する子会社を通じて事業を行う事により租税回避を図る行為を規制する制度である。

タックスヘイヴン対策税制は、タックスヘイヴンに留保された利益を日本に移転した段階で、その親会社や日本の居住者に配当がなされたとして、課税するという策である。裏を返せば日本に利益を還流させなければ課税対象にならないとも言える。

タックスヘイヴンの税率(法人税)であるが、香港は16.5%、シンガポールは18%、BVIでは0%である。(但し、BVIでは法人税がない代わりに毎年1回、法人の営業許可の更新費用が20万円ほど必要となる)。日本の法人税から比較すると、考えられない税率で、極めて低い現状にある。言い方を変えれば、いかに日本の法人税が世界標準に比べて極端に高いかという事になる。 (この資料はウキペディア、ヤフー、ジャックスほかの記載事項から抜粋して作成 ) (つづく)