「死を以て訴えた」西義輝を足蹴にする鈴木義彦の末路

品田裁判長が、和解協議の場ではA氏と西による強迫があったとして、鈴木が和解書へ署名指印したのは心裡留保に当たると認定したことがいかに正当性を欠いたものであるか、前回までの記事でお分かり戴けたと思われるが、他の記事も含め繰り返し述べてきたように、西が和解協議から4年後の平成22年2月初旬に自殺したことによって、鈴木は裁判では西の死を最大限に悪用してA氏を誹謗中傷した。

鈴木が長谷川元弁護士の質問に答える形で自身の正当性を主張しようとした「質問と回答書」(乙59号証)では、債務が完済されているのにA氏から二重払いを強要されたと言い、鈴木はそれに従って15億円の借用書を書いたが、その理由として挙げたのが以下の裁判での証言である。

「突然、西の顔が引きつって、泣き出すような表情になり、『鈴木さん、俺の命を救ってくれ』と懇願してきました。私は、何を言っているのか分からなかったので、『どういうことか』と聞きました」

長谷川弁護士が「そうすると、西は何と説明したのですか」と尋ねると、

「原告の要求に従って金を払わないと、原告に殺される、鈴木さんも鈴木さんの身内も殺されると泣きそうな顔で言いました」

と鈴木は答えたが、鈴木が証言するような事実があれば、鈴木は平成18年10月13日のA氏との面談、そして10月16日の和解協議に現れるはずがなく、さらにその1週間後の10月23日に鈴木が一人で来社することもなければ、それぞれの場で当然議題になっていたはずだが、そうした事実は一切なかった。全て鈴木による後付けの作り話である。仮に西がA氏には逆らえないという話が事実とすると、「合意書」を交わした後に西は何故A氏を裏切って鈴木と利益折半の密約を交わすことができたのか。西はA氏への「遺書」の中で、自身と鈴木による裏切りを最大限に詫びていたが、鈴木が西をも裏切ったからこそ西は自ら命を絶たざるを得なかったことは遺書からも明白である。西は鈴木に宛てた遺書の中で次のように述べている。

「貴殿が真剣に反省しなければいけない事が沢山ある。まず貴殿のずるい考え方からやってきた、人間としてやってはいけない裏切り、社長と私、貴殿の三人でしたいくつかの約束事に関する裏切行為、私の浅はかな考えから、貴殿のずる賢しこさにコントロールされ、社長に大変な実害や信用を傷つけた件、社長を利用することによって与えた大きなダメージなど、貴殿と私で行った社長への大きな裏切りを考えたら、私の一命をもっても償える事ではない。(略)今後、私亡き後、貴殿は社長に対して言い訳も一切できないし、今までのように逃げ回る事もできなくなる。貴殿がすることは、ひたすら社長にお詫びをして、約束を実行するだけである」

鈴木は西の悲痛な訴えに一切耳を貸そうとしなかった。それどころか、前述したように、裁判では西の死を最大限に悪用したのである。全ては自分の強欲を満たて1000億円以上に上る隠匿資金(資産)を守ると同時に、外為法や金商法を犯し脱税を繰り返すなど数多くの犯罪を隠蔽するためである。

和解協議の場でも、鈴木のあくどさは如何なく発揮された。西に詰め寄られて鈴木がようやく認めたのは、宝林株の取得資金3億円をA氏が出したことと、宝林株取引が合意書に基づいて実行されたことの2点で、宝林株以外の銘柄については合意書とは一切関係ないと言い張った(裁判ではこれら2点についても否定した)。

西は遺書の中で終始鈴木に改心を求めた。「現在の貴殿の置かれている立場では、沢山の資金を自由にでき、お金も自分の思うがままに使え、過去の事を忘れているか、忘れたいと思う気持ちであろうが、私のこの手紙の内容については貴殿が一番よく理解している事だ。社長及び私の助けだけで誰も協力してくれなかった頃の貴殿を、今一度しっかりと振り返りながら考えるべきである。貴殿が株取引で手にしたお金のうち、2/3は合意書に基づいた社長及び私の預かり金である事を忘れてはいけない」

また、西はA氏に送った遺書の中でも「私に一命を絶つ事で許される事は一つもありません。お借りしたり、投資をして戴いたお金につきましても、天文学的な数字(323億円)ですし、誰以上に社長が私を信用してくださった事、誰以上に期待をかけてくれた事、私はすべて解っておりましたが、それも自分勝手な理解でしか過ぎなかった事です」と書き、あらゆる事がうまくいかない状況では、けじめをつけるしか他に道がなく、「ただただ、自分に逃げているだけで、本当に無責任な事です」と綴っている。

西は、合意書を交わした後の最初の銘柄である宝林株の取引で、約160億円という巨額の純利益が出たことに目がくらんでか、鈴木の「合意書通りに利益を3等分しても、自分たちの手元には1円も残らない。それよりも利益は2人で山分けしよう」というたぶらかしに安易に乗ってしまい、A氏を簡単に裏切ってしまった。

「(宝林株取引以後は)第三者割当増資を数十社に対して行ったが、貴殿は報告するだけで、お金のコントロールは貴殿がすべて行い、私は言い訳やウソの報告ばかり社長にすることになったわけだ。しかし、全体の利益のうち、1/3以上の以上の取り分は必ず私に渡すという二人の約束があったため、私もそれを信じ、貴殿の言いなりになって社長を欺いてきたわけである。1回ずつの取引や利益金を社長に報告していれば、こんな事にはならなかったと、自分の考え方ややり方に呆れてしまっているが、今更社長に何を言っても言い訳にしか過ぎず、本当の申し訳なく思っている。私にとって最大の不覚であった。貴殿の言いなりになって、社長を欺いてきたわけである。私が絶対やってはいけない事を一番の恩人にしてきたわけだから、私は絶対に許されることではないし、貴殿も絶対に許される事ではない」

合意書にはA氏と西、鈴木のそれぞれの役割が明記されてはいなかったが、鈴木と西の間ではターゲットにした企業が行う第三者割当増資の受け皿となるペーパーカンパニーを鈴木が用意して株式を取得し、それを市場で高値で売却するのが鈴木で、西はA氏から支援を受けた買い支え資金で株価を高値に誘導するという役割分担が決められていた。当然、株を売却した後の得た利益を鈴木は手元で自由にコントロールすることができたから、独り占めする工作も容易にできたはずである。西は「私は貴殿の汚いやり方をやっと気づいた。貴殿は、どんな時でも、自分が弱い立場にいる時、あらゆる事を言ってでも助けを乞うが、自分が強い立場になった時には、まず一番重要な立場にいて、貴殿のパートナーに近い人間や色々貴殿の秘密を知っている人間を追い落とし、弱くさせながら自分の思うようにコントロールするやり方をずっとしてきている。私以外でも、過去に貴殿が利用した人たちに対して、全く同じひどいやり方をしている」と述べているが、西は実名を書いてはいないものの「過去に貴殿が利用した人たち」とは、側近で自殺した天野裕氏や同じく側近で交通事故死した大石高裕氏をはじめ、行方知れずとなっている吉川某(証券担保金融業者)や投資トラブルで夫婦ともども殺害された霜見誠などのことではないか。

西はA氏に対して「今まで、社長に資金を依頼して一度も断られた事はなく、人から借りてでも私にだけは、必ず用立てて下さいました。私は、そこまでして用意して下さった多額のお金を投資に回して、成功できる事が沢山あったにもかかわらず、詰めの甘さや人を信じすぎて、最後にはいつも大きな失敗をしたり、人を見る目がないために裏切られてばかりで、本当に申し訳ありませんでした」と書いている。A氏が合意書に基づいて支出した株取引に係る買い支え資金は総額207億円にも上るが、西は株取引を開始する以前からA氏には金銭的な支援を受けており、その債務は116億円(ブラックマンデーに係る損失や東京オークションハウスの事業資金等)になっていた。

また、買い支え資金という名目ではあっても、西は鈴木とは別のデリバティブ取引他の投資にも一部流用した。株取引のさ中で、鈴木から合意書の破棄を執拗に迫られ、「破棄した」と嘘をついたことで、複数回で紀井氏から西の運転手の花館聰氏経由で10億円の礼金を受け取り、さらに主に宝林株の利益分配の名目で総額30億円を受け取っていたことも判明しているが、西はA氏には真実を一切明かさないままで、債務の返済も怠り続けていた。

A氏が株取引の真相の一端を知ったのは、平成18年10月、西が息子の陽一郎と共に香港に出向き、利益の分配金の一部(43億円)を受け取ることになっていたにもかかわらず事件に巻き込まれ瀕死の状況に置かれたことからだった。

鈴木の代理人と目されるTamという男に勧められたワインを飲んだ直後に意識を失い、それから3、4日は生死の境をさ迷った。事ここに及んで、西も真相を明かさざるを得ず、鈴木からの利益分配を受け取るために香港に渡航した事実がA氏にも分かって、その後の10月13日と同16日の鈴木との面談、そして西も16日には同席して3人による和解協議の場となった。

「その、無いはずの合意書を社長から見せられた貴殿は、さぞびっくりしたはずだ。2006年10月16日に社長、私と貴殿で社長の事務所で会って、貴殿は新しい支払い条件を社長と私に提示したわけだが、私はこの時、貴殿の言っている利益金が50億円~60億円しか無かったと言ったことに反発をし、貴殿が提示した50億円プラス(A氏には別途2年以内に20億円を支払う)の確認書にはサインをするつもりはなかった。なぜなら、貴殿が稼いでいた利益は470億円以上あったからだ。貴殿の下で働いていた紀井氏も茂庭氏も私に前もって教えてくれていたし、天野氏に確認した時も470億円の金額にも一切の驚きもせず、『それぐらいはあると思いますよ』と平然と応えた。この時は、ただ言葉だけで確認をしたのではなく、紀井氏の利益明細書を見せてもらった。しかしながら貴殿と三人での和解書作成の時にも、社長に私は本当の利益額を正直に伝えようとしなかったため、社長に貴殿の説明による利益金での判断をさせてしまい、あのような少ない金額の確認書になったわけである。この三人の打合せの時でも、貴殿は利益金額を騙し、ウソの金額で押し通したわけであり、決して許される事ではない。その後も(鈴木は)約束した確認書の金額を支払う事もせず、好き勝手に逃げ回っている」(前同)

西が自殺した直後にA氏と西の妻と子息(内河陽一郎)、そしてA氏の代理人であった利岡正章が鈴木の実父徳太郎の自宅を訪ね、西の自殺について思うところを尋ねるとともに鈴木との面談設定を改めて徳太郎に依頼した成り行きから、徳太郎が娘(鈴木の妹)を同行してA氏たちと最寄りの警察署に向かうということがあった。同署の課長が応対する中で妹が鈴木に電話をすると鈴木が電話に出た。そこで妹が鈴木に事情を伝え、課長が電話を代わって「すぐに来て欲しい」と言っても、鈴木はさまざまに理由をつけて「都合がつけられないので、A氏には明日電話します」と言って面談を拒否してしまった。鈴木と長谷川が作成した「質問と回答書」に基づけば、鈴木がA氏と西に強迫され「和解書」を作成したと言うが、警察署に訴える絶好の機会であったはずではないか。しかし、鈴木は言を左右にして面談を拒むだけで、翌日以降もA氏に連絡を入れることはなかった。鈴木の言動がいかにちぐはぐなものであるか、それを目の当たりにした徳太郎は一言も発しなかった。

西が徳太郎に宛てた遺書で、西は「今まで二人で一緒にやってきた数々の取引や義彦氏に頼まれて行ったいくつもの案件については、良い悪いは別として、私も納得の上、行った事で、同罪だと思っております」としながら、「一日でも早く三人で交わした合意書に基づいて約束を実行すること。社長にお詫びを入れて、話し合いをし、これ以上、この件が大きな問題にならないよう、お父様の協力をもって息子さんを説得して戴きたく、お願い申し上げます。社長は話し合いができる人です。このままですと、近いうちに大変な事が起きると思いますので、お父上様だけじゃなく身内の皆様とも是非相談をして解決に当たって下さい」と鈴木を説得するよう述べており、徳太郎も鈴木に対して早期の問題解決を訴えていたようであるが、鈴木は聞く耳を持たなかったようで、いつの間にか徳太郎からの電話には出なくなったという。

西は遺書を送った鈴木の関係者で青田光市がいる。鈴木が和解協議の後にA氏に手紙を送って支払約束を反故にしたうえ、代理人を立てると一方的に通告して平林弁護士と共に指名したのが青田だった。しかし、青田は交渉を混乱させるだけでなく、嘘ばかりつく無責任な男であった。

「貴殿は今回、鈴木氏の件について、色々とアドバイスや協力をしてきた様だが、事の重大さを認識しないで無責任な発言が多すぎたようだ。私のホンコンの件についても、私がホンコンに行っていないとか、そのような事件がなかったとか、社長の会社のエレベーターを止めて鈴木氏を監禁したとか事実でない事ばかりを想像で何事も言っているが、エレベーターを止める事も出来ないし、ホンコンについても犯人は確定していないが、事件があった事も確かだ。本当の事を知らないで、社長の借金についても、担保がついてないから借金は無いとか、本当に無責任すぎる」と西も述べている。

本誌で取り上げているように青田は30年来付き合いのある暴力団幹部(習志野一家No.2の楠野伸雄)に鈴木の裏仕事を依頼してA氏の代理人の利岡を襲撃する事件を教唆したり、赤坂マリアクリニックを乗っ取る事件を起こしたり、さらにはタイで欠陥プラントの販売詐欺事件を起こして刑事告されるなど根っからの犯罪者と言っても過言ではない。今までの鈴木にとっては重宝な人間だったかもしれないが、鈴木自身の足元に火が付き始めているような現状にあって、青田の存在は致命傷となりかねない危険な男である。青田のような人間を野放しにしていると、多くの被害者が出るのは間違いのないところだ。

西は鈴木への遺書の最後で「私も貴殿も、あんな優しい人(A氏)を裏切るとは本当に悪だと思わないか」と述べ、さらに「貴殿は自分の事だけじゃなく、身内、彼女、関係者等の事を考えた事はあるのか。色んな事が調査済みであるし、かならず独断で動く人間が出てくると思う。最悪の結果を招く事になる。きっとその時には、社長でも止めようはないだろうし、早急に社長と話し合いをして解決する事だ」と述べている。西の死からすでに10年が経過している中で、鈴木には何を言っても無駄かもしれないが、数多くの関係者を犠牲にしてきたことで想像もできないほどの恨みや憤りから鈴木を絶対に許さないと叫んでいる声に耳を傾けるべきではないのか。(つづく)