鈴木 だけど香港とかさあ、俺が強盗殺人とかさあ、そこまで言われてるのは、その話は別に俺は知らないし、無いんだと。
西 だから有っても無くても、強盗殺人という部分に関しては認める事は出来ないんだから、だからその話は今・・
A氏 内ちゃん(西のこと)、内ちゃんが本当にやなあ、鈴木さんとの取引で・・
西 社長、ちょっとすみません、申し訳ないんですけど、私がその事に対して、私が自分で判断を下しますから、まずこの部分(合意書の分配金)から話をして下さい。
鈴木 判断下すってどういう意味?
西 だから、私がちゃんと判断を下していきますから。
鈴木 ちょっと、それどういう意味? 意味だけ教えてよ。
A氏 オープンにしなよ。
西 だから私の中では、尾行つけられたり、色んな事があったり、ね。香港の件も含めて、誰がどういうふうに動いているか。
鈴木 じゃあ一言だけ、紀井に西と彼と昨日会ったのかっていうの聞いて良いですか。それでさあ、言われてお前、俺もこうだ、ああだってのは言わないからもう、それは。
西 いや会ったって(紀井さんが)言って、あの、色んな事は彼にも責めないで下さいよ、鈴木さん。
A氏 鈴木さん、それやるのはダメだよ。(紀井さんは)守って欲しいって言ってるんだ。俺も本当に立場がないよ、鈴木さん。それは、約束を守ってもらわないといかん。
鈴木 正直に言ってくれと。
(紀井氏に架電)
鈴木 (電話) もしもし、おお、あの、昨日さあ、昨日西と会ってるの?
西 呼び捨てもやめて欲しいなあ。
鈴木 (電話) え? 会ってない? まあ正直に言ってみてくれ。
西 本当に正直の方が良いよ。
鈴木 可野っていう人と会った? 警視庁の元警視正の、さっき社長と話した? この前、さっきはすみませんて、ちょっと待ってね、今、社長とさ、3人でいるんだけど、話が良く分かんねえんだ。ちょっと待ってろ。
A氏 もしもし、ああ紀井さん、私ですが、紀井さんねえ、あの・・もしもし、紀井さんね、あの何かあるって、そういう事、さっきも言った様に、目一杯99%守る自信はあります。そんな事は心配しなくても良いです。紀井さんとさっき僕と電話で話しましたよね、話しましたね。間違いないですね。分かりました。紀井さん何も心配する事ないですよ、全然問題ありませんから、心配しないで下さい。
鈴木 もしもし、おお、実際に電話してるの? こいつ(西)の電話に掛けたのか?
西 私の携帯に電話かけてきたの。
鈴木 掛ってきたの? もしもし、別に良いからさ、本当の事言ってくれよ、なあ。いやいや本当の事を、ちょっと知りたいだけなんだよ。うん、誰から掛かってきたの? じゃあ、昨日も会って話してるの? もう何回も何十回も会ってるの? うーん、それで昨日も会って話してるんだ。で、どういう話したの?
西 それだけで良いんじゃないの。確認するって事じゃなかったの。確認するって事じゃなかったんですか。
A氏 そうだな。
鈴木 株があの、自分は、私はこうです、ああですっていう話を全部してるの?決済の。いやいや紀井よう、な、俺の事をさビビって言えないとか、社長もな責任持つって言ってるんだから、本当のこと知りたいだけなんだ俺は。いや、それはもう明細、色んな事を全部聞いてるんだって言って、西が全部資料持ってるんだけど、俺も全然その、腑に落ちない数量とか株数とか全部知ってるとか言ってるんだけどさあ。君から聞いたって言ってるからね。もし君の判断で言ったなら、言ったで構わないんだ俺は。じゃあ、でもさっき何で会いませんよって、会ってるんだろ、でも。呼ばれて、どういうふうな話・・
西 呼ばれてって、紀井さんが部屋取ってるんだよ。
鈴木 それで何だっての。それはどういう話したの?
西 そこ迄やるの? だって電話で確認するだけじゃないの? それじゃ、
鈴木 また電話するわ。
A氏 いや、あの鈴木さん、鈴木さん。テープ1時間半入ってんだけど、私はそんな事よりも自分で自己申告で良いじゃないですか。だったらどれだけ儲かったって事で良いじゃないですか。それで後で綺麗に話つけませんか、出来るんだったら。
鈴木 それ、テープ、声だけ聞かせてくれる?
A氏 鈴木さん、出来たら気持ち良くやりたいな俺は。鈴木さん、どうかね。
鈴木 まあ、お互い納得出来るんだったら。お互い納得出来る線が見い出せればだね。
その後、株取引の利益は全部で50億円と鈴木は言い、25億円ずつ2人に払うと言うので、A氏は鈴木に、50億円の利益で2人に25億円ずつを払うのでは、貴方の取り分が無いと言うと、鈴木はイヤ、60億円くらいありましたと言い替え、その時、西が「それでは社長が友人から借りている金の一部にしかならない」と言うと、鈴木が「社長には大変お世話になったので、あと20億円を払う」と言い出した。この20億円についても西が「和解書に書け」と鈴木に行ったが、鈴木は西に対して「オマエの言い方が気に入らないので書かないが、(A氏に)社長、信用してください。約束を守りますから」ということになった。
鈴木は、宝林株800万株の取得資金をA氏が出したこと、合意書破棄で西に10億円を払ったことで西がA氏を裏切ったことについて、西に「これくらいは認めろ」と言われ、この2点について鈴木は素直に認めた。
和解書の文言は、西の顧問が作成したので「気に入らなければ文言を修正しますよ」とA氏が言ったが、鈴木は「問題ありません」と答えている。そして鈴木は同年の10月末より毎月10億円を5カ月で支払い、20億円については2年の猶予を下さい、できるだけ早くしますと言った後、A氏に握手して帰った。A氏の会社を出てすぐに鈴木が紀井氏に電話をして、「100億以内で済みそうなので良かった」と報告して香港の銀行にある金がバレないかを心配していた。
【解説】
宝林株取得にかかる経緯
鈴木は、西がA氏から株買取資金3億円を借り入れる約束を得たことで、それまでに付き合いのあったフュージョンアセット社と謀り、宝林株の受け皿となるペーパーカンパニー3社をフュージョン社に用意させた。また、宝林株を売って利益を出すために以前から付き合いのあった証券マンの紀井に声をかけ「利益折半」を約束したことから紀井は話に乗り、鈴木の下で専従をすることになった。売買契約の際に宝林株の現株を受け取ることについてもフュージョン社の担当者(町田修一、川端某)にさせることを西に了解させた。さらに、金融庁への大量保有報告書を作成提出するに当たり、杉原正芳弁護士をペーパーカンパニー3社の常任代理人に就かせたが、杉原弁護士には宝林株の取得資金についてA氏から3億円を借り入れた事実を隠し「紀井義弘からの借り入れ」と虚偽の文言を書き入れるよう指示した。これにより、鈴木は宝林株を完全に手中に収める形となった。宝林株を売って利益が出ても、その収支の実態が西に知られなければ、利益分配で鈴木の好き放題の差配ができる状態にもなっていたのである。なお、鈴木は後になって宝林株の取得資金3億円の出所について「宝林株の買取り資金はA氏から借りていない」と強調し、当初は「買取り資金はワシントングループの河野氏から借りた金だ」と言ったが、間を置かずして「宝林株は売買の話ではなく、ファイナンスの依頼だったので、買取り資金は必要なかった」と言い替え、さらには「自己資金で賄った」とまで言って主張を三転も四転もさせた。大量保有報告書に紀井氏の名目を無断で使った結果、主張をコロコロと変えざるを得なかったのだ。
合意書作成の経緯
鈴木と西は、宝林株取得から金融庁への大量保有報告書の提出、さらに紀井氏を株取引の専従としてスカウトした等の事実をA氏には一切報告していなかった。特に紀井氏に対して「利益折半」を約束した事実からして、それを西がどのように承知していたのか、「合意書」に上がった利益は一旦A氏に預け、経費や西の会社(東京オークションハウス TAH)への手数料等を差し引いた後に3等分すると明記していたが、鈴木は飽くまで利益の処理を自身が主導するという思惑をひた隠しにしていた。
〇「合意書」が作成されてから約3週間後の7月30日、西が「宝林株で上げた利益」と言って15億円をA氏の会社に持参してきた。西の説明から、一人の取り分は5億円だが、西と鈴木がそれぞれA氏への返済の一部に充てるというので、A氏は15億円全額を受け取った。そのうえでA氏は心遣いで「鈴木さんにも5000万円を渡しなさい」と言って二人分として1億円を西に渡した。ところが、西が「利益は15億円」とA氏に語った話は実は嘘で、宝林株の取引はその時点でも継続中であり、後日、西が語ったところによれば、その時点での利益は約50億円で、最終的には160億円を超える利益が出ることになった。
〇利益が160億円にもなったことに目がくらんだのか、鈴木は西に対してA氏を外して2人で利益金を折半するという密約を交わそうと唆し、A氏が保管していた「合意書」を西に破棄させようと躍起になり、結果として総額で10億円もの“報酬”を複数回に分けて紀井から西の運転手の花館聰を経由して西に渡していた。
〇A氏が西に三人での協議をしようと声をかけても、西は「(鈴木義彦は)海外に出かけていて、しばらく日本には帰って来ない」と言って、話をはぐらかし続けた。
一方で「市場関係者の間ではA氏が100億円以上も利益を上げている」といった話をA氏の耳に入れ資金支援を頼む相場師たちが絶えず、A氏はそのことを西に確認した。すると、西は「そうした話は噂に過ぎません。鈴木は今、1DKの部屋で頑張っているので、長い目で見てやってほしい」等と言って、具体的な経過報告をせずに誤魔化し続けた。全ては鈴木の思惑通りに西が動きA氏に対応したため、A氏は完全にカヤの外に置かれたまま買い支え資金を出し続けていた。
〇なお、A氏が心遣いで西と鈴木のそれぞれに渡した5000万円について、7月31日、西と鈴木がA氏の会社を訪ね、15億円の処理が確認された後に2人が礼を述べたが、株取引に係る具体的な収支の状況、その後の株取引の予定などについてA氏に説明しなければいけなかったにもかかわらず、鈴木はもちろん西も故意に避けた。
〇宝林株の取得資金をA氏が出した点についても、鈴木は「宝林株の買取り資金はA氏から借りていない」と強調した。
当初は「買取り資金はワシントングループの河野氏から借りた金だ」と主張した。しかし、間を置かずして「宝林株は売買の話ではなく、ファイナンスの依頼だったので、買取り資金は必要なかった」と言い替えた。しかしこれも、宝林株を取得した「バオサングループ」などぺーパーカンパニー3社は鈴木が用意したペーパーカンパニーで実態がないことは明らかだった。さらに「買取り資金3億円は、自分(鈴木)が稼いで留保していた金を買主の会社に貸し付けた形で決済した」とまで言い替えたが、そもそも、平成10年の年末、鈴木は保釈中の身で自暴自棄になっており、借金を返す当てさえなかった事実から、わずか数カ月後に自己資金を用意できる訳がなかった。当時鈴木は10日で1割以上の金利を取る金融会社からも相手にされず、まして刑事被告人の身で自由に身動きはできなかった。
その後、鈴木は「西は、いい加減な人間なので、西と同席で交わした書類は無効」とも主張したが、それこそ論外の言い訳だった。
〇鈴木は和解協議の中で、合意書は飽くまで宝林株の取引に限定したものとして言っているが、合意書には「今後全ての株取引」という文言が明記されている。宝林株はそのスタートに過ぎなかった。
〇和解協議のやり取りでも触れている通り、鈴木はその後、A氏に何度となく電話を入れる中で、「買い支え損は70億円と西は言っているが、正確な数字を知りたい」と言うので、A氏が西と紀井氏から確認すると、58億数千万円という。それを鈴木に伝えると、鈴木は「その分を差し引いた後の数字で3等分しなければいけませんね」と言った。A氏も「そうだよ、それが本当だ」と答えたが、このやり取りからも鈴木が合意書の有効性を認めたことが分かるが、当然のことである。
15億円借用書作成の経緯
西が志村化工株の事件で逮捕、起訴され、保釈された直後の平成14年6月、A氏が貸金と株の話を西にしたところ、「株取引の利益がこれから大きくなるので(鈴木の債務を)圧縮して欲しい」と西がA氏に話した。鈴木への貸付は金利年15%で計算すれば40億円超であるが、遅延損害金年30%で計算すれば60億円を超えていた。A氏は了解して鈴木への貸付金を25億円に減額した。そして平成14年6月27日、鈴木と西がA氏の会社を訪ねた際にA氏が確認を進めると、鈴木が唐突に「社長への返済で西さんに10億円を渡しました」と言い出した。驚いたA氏が同席していた西に確かめたところ、西が渋々ながら授受を認めたために、鈴木は25億円から10億円を差し引いた15億円の借用書を書き、西も10億円の借用書を書いた。A氏は鈴木に対し「私に対する返済金であれば、なぜ直接来て話をしなったのか。もしそれができない時でも、なぜ西に私への返済金の一部として渡したということを、最低電話ででも言わなかったのか」と言うと、鈴木は「済みませんでした」と言って謝罪し俯いたまましばらく顔を上げなかった。
しかし、西が鈴木から受け取った10億円はA氏への返済金などではなく、「合意書」の破棄を西に執拗に迫り、その結果、複数回にわたって西と鈴木の間で報酬名目の金銭の授受が発生したものであった。実際は紀井が西の運転手の花館聰に複数回で渡している。和解協議のやり取りにもある通り、西が鈴木に「これくらいは認めろ」と詰め寄り、鈴木も「忘れた」などと言い訳していたが、最後には言い訳の仕様も無く渋々認めた。A氏から受けた買い支え資金で莫大な利益を上げていたにもかかわらず、それをA氏には隠し続け独り占めした、という鈴木の裏切りが決定的になった瞬間だった。裁判の後半でも「(平成14年6月27日に)西に10億円を渡したとは言っていない」「その日には3人で会っていない」とまで言っているが、2人の借用書には当日付の確定日付がある。
品田幸男裁判長の誤った事実認定と誤判
「株取扱合意において定義されるべき分配対象利益の内容及び範囲は、余りに無限定というべきものである」として、銘柄欄が空欄であること、宝林株以後に実行する銘柄の特定が無いこと、3人それぞれの役割と業務内容が規定されていないこと、利益の処理方法が明確では無いこと等を挙げたうえで、「原告、西及び被告が具体的に協議したり、個別の契約を締結したりして、株取扱合意書の内容を補完したといった事実は認められない」と断じて「被告に対して法律上の具体的な義務を負わせる上で最低限必要な程度の特定すらされていないものといわざるを得ない」と結論付け「合意書」の有効性を認めなかった。しかし、和解協議でのやり取りにもある通り、鈴木は宝林株800万株の取得資金をA氏が出したことを認め、さらに宝林株取引が合意書に基づいて行われたことを認めている。さらに鈴木は合意書を破棄させるために、西に「書類、全部破棄するように」と言った事実を認めている。こうした事実は鈴木自身が合意書の有効性を実感しながら、それを無視して株取引の利益を独り占めした何よりの証になるが、品田裁判長は排斥した。その結果、平成11年7月30日に西が「株取引の利益」と言ってA氏の会社に持参した15億円を、鈴木によるA氏への返済金に充当するという大きな誤りを犯したのである。
なお、3者のやり取りを見れば明らかなとおり、鈴木に対してA氏と西が強迫したという事実はどこにも見られず、また和解書作成で鈴木は書面に書かれた内容を何度も読み、A氏から「気に入らなければ文言を修正しますよ」と聞かれても「問題ありません」と言って真っ先に金額欄に50億円と書き、署名指印したのである。品田裁判長が事実認定した「強迫」もなければ「心裡留保」を認める根拠もなかった。
今回の裁判について、ここまで酷すぎる誤判は、ここまで大きな事件では初めてのことではないかと思われる。今後の裁判にも悪い影響が出るのは必至だから、弾劾裁判、再審は絶対にやるべき事件だ。(以下次号)