高崎市水道局のホームページには「漏水があった場合には、修繕費用や漏れた水量の使用料金もお客さまのご負担になります。しかし、地下漏水や発見が困難な箇所からの漏水で、指定給水装置工事事業者(以下、「事業者」という)が修繕する場合には、事業者の漏水証明と修繕証明によって、使用料金を減額できる制度があります」と謳っている。そして、減免の対象になる要件として挙げているのが「地下や床下、壁の中など、目に見えない場所からの水漏れで発見するのが難しい場合」「地震や大雨などの自然災害が原因で不可抗力の場合」「使用者に過失がない場合」の3点である。
ところが、高崎市内のビルの地下に埋め込まれた防火用貯水槽で、自然災害が原因で漏水事故が発生し、水道料金が約108万円と巨額に上ったという事案で、水道局がビルの管理会社には減免申請は受け付けられないと拒んだうえに、管理会社が支払に難色を示し続けると、強引に支払いを求める訴訟を起こしたのだ。そのビルでは毎回の水道料金が平均で6~8万円だったから、1回の請求で108万円という金額になる原因が何らかの事故によるものであるのは明らかだった。
事の経緯は以下の通りだ。水道局料金課が検針により請求書を作成することになった令和4年5月、請求金額が約108万円であることに驚き、管理会社に異常の原因を確かめる照会をかけたことで、管理会社もそれを初めて知り、ビルの管理者に確認する作業が行われたという。
そして水道局の職員が管理者に伝えたのは、水槽が一杯になれば自動的に水を止めるボールタップと呼ばれる部品(家庭のトイレタンクで水が溜まれば水を止める構造と同じ)が破損したために水が流れっぱなしになったということだった。そして、水道局が管理会社に照会をした際に、水道料金の80%前後が減免の対象になると言っていた話を撤回して、全量使用者側の負担になる、と調査に立ち会った管理者に告げた。当然、これに管理者が強く反発し、水槽が普段は点検が非常に難しい所にあって、異常を発見するのが困難だったことに加え、ボールタップ破損の原因が自然災害によるものだったことを考慮すれば、減免の対象になって然るべきではないかと訴えた。ところが、水道局の職員は、主要な水道管や、そこから引き込まれた給水管の破損であれば減免の対象になるが、ボールタップは飽くまで使用者側の管理になっていると強調して譲らなかった。水道局の算出によれば、溢れ出していた水の全量が使用者側の負担責任となり、請求すべき水道料金は満額の108万円を超える金額だとした。
水漏れにより高額になった水道料金は、原則としてその水道の使用者が支払う必要があり、その理由としては、「給水装置」(給水管、止水栓、メータボックス、蛇口などの給水用具の総称)が個人の財産であるために、その管理や修繕の責任も所有者にあるとされている。
防火用の貯水槽は地下1階の床下に設置されていたが、同フロアーにはライブハウスがテナントとして入っている中で、非常事態でもない限り、日常で点検する作業はなく、特に地下1階の床下にある水槽や水道管、部品等の状態は、専門の業者による特別な点検を必要とするものだった。つまり、管理者が日常的にビルの内外を見回る作業の中で異常を発見できるものではなかったという。
漏水事故が発生したと思われる1か月ほど前の3月16日に高崎市周辺で大きな地震があり、その影響で漏水事故につながったとしか考えられないと強調した。この地震は同日の午後11時36分ごろに福島県沖で発生し、マグニチュード7.3、最大震度6強に及び、高崎市内でも震度4を記録した。また、この地震の影響で高崎市内ではおよそ10,360軒が停電したほか高崎駅発着の新幹線と在来線はすべて運休した。
それから約1か月後の4月10日、管理者がビル内を見回る中で、かすかではあったが異音に気づき、改めて床下の板を外して水槽を覗き込んだところ、水が溢れていることが分かったものの原因を探ろうとしても困難だったことから、急遽水槽につながる水道管の元栓を閉めたという。
ビルの地下にある防火用の水槽に水を溜める水道管に異変が生じ、それに気づいてビルの管理者が元栓のバルブを閉めた経緯を踏まえ、管理会社では漏水事故は地震による自然災害が原因であり、また漏水事故に気付くまでに時間がかかるほど発見が極めて困難な状況にあったとして、水道局に減免措置を取るよう何度も交渉したが、水道局がそれを拒否したためにビル管理会社が支払いをしなかったところで訴訟を提起したのだった。
貯水槽の漏水事故は、冒頭にも触れたとおり、減免の対象のいずれにも適合していると思われる。
しかし、それでも水道局は、原因が水道管の破損ではなくボールタップにある限り、減免の対象にはならないと言い張った。そのうえで減免の対象になるかどうかで、水道局の上層部に諮り協議したが、上層部が対象にはならないという結論を出したので、これを覆すことはできないと言う。しかし、減免の対象になる要件をクリアーしているのに、対象にならないかの説明をしないまま、なぜボールタップにだけ言及するのか、あまりにも行政側の考えを一方的に押し付けていると言わざるを得ない。水道局の上層部は何故ボールタップだけにこだわるのか。漏水が発見の困難な地下の床下にある防火用水槽で起き、しかもその原因が自然災害にあるというのは明らかに減免の対象要件を満たしているではないか。
交渉が平行線をたどる中で、水道局が6月初旬に請求書を送付すると言ったことにも、ビル管理会社は「支払う意思はない」と返答した後に支払期限を7月11日と明記した催告書がビル管理会社に送付されたという。その後、水道局からの催告書の送付があり、ビル管理会社は顧問弁護士を窓口にして交渉を継続した。
料金課の担当者は「上層部の決定」を強調するが、高崎市水道局の福島克明局長以下幹部職員たちは何カ月も何を協議したというのか。自然災害や不可抗力が原因で検針した水道量が通常の20倍近くにハネ上がってしまったことが明らかになっているにもかかわらず、その責任を全て使用者側に押し付けることに何の痛痒も感じないというのか。そうであれば、水道局の姿勢は明らかに公益性に反している。
一方で、ビル管理会社は、地下1階のライブハウス(フリーズ)やスーパーカーの展示で集客にかなり影響していると考えていたが、以前より大手を含めた何社かの不動産会社からビル購入の希望があったので、6月30日限りでビルを売却し、購入した不動産会社が直後からビルの解体作業を進めた。それを承知しながら、水道局は減免対象の根拠となる証拠を提示しろ、などという乱暴な要求を繰り返した。管理会社側の主張や希望に一切耳を傾けようとせず、訴訟に踏み切った水道局、というより高崎市という自治体の姿勢を大いに問題とすべきではないか。本末転倒している水道局の対応は明らかに行き過ぎであると思われるだけに、水道局は減免についてもう一度見直すべきなのだ。
高崎市の行政手続きを問題にする声は、実は水道局の対応だけではない。根幹の原因が大なり小なり富岡賢治市長の姿勢にあるのは当然だと思われても仕方がないことが窺える。少なくとも2010年5月以降、特に2019年と2023年の選挙は無投票で当選を果たし、富岡氏が4期めの市長を務める中で行政での専横が際立っても、それを口にすることが憚られるようになり、富岡氏が3期目の市長に就いた2019年10月には高崎芸術劇場の照明備品を巡る官製談合事件で市役所職員が逮捕されるような事件が摘発されたこともあり、富岡市政への不満や非難がいくつも表面化しているのが実情だ。
実は、過去に管理会社の預金口座を、高崎市が事前通告もせずにいきなり差し押さえ、滞っていた固定資産税の未払分を全額回収してしまったという事態があった。令和4年4月15日、突然、高崎市納税課が地権者の会社の預金口座を差し押さえ、1000万円を超える金額を回収するという事態が起きたのである。当日の朝、地権者の郵便受けに入っていた郵便物の中に高崎市から送付された封筒があり、開封して中身を見ると、支払が遅れていた固定資産税について、地権者の会社名義の預金口座を差し押さえ、さらに回収(未払相当額を引き出す)する内容が書かれていたが、驚いたのは回収日が、封筒が届いた当日だったことだった。何の前触れもなく納税者の懐に手を突っ込み、無理にでも回収することなど、決して許されることではない。
高崎市が作成し送付した書面の日付は4月11日だったが、郵便物が転送されていたために、手続きに時間がかかったのか、地権者の手元には15日の朝に届いたものだった。そもそも、差し押さえをするにしても、実際に回収するまでに一定の時間を置き、その間に未払い分の支払について地権者側の対応を確認するのが行政として当然であり、納税者に対する配慮だ。仮に封筒が正常に届いていたとしても、わずか2日ほどしか時間を置かずに回収日を設定するというやり方は、あまりにも無礼であり、富岡市政の何をしてもいいという傲慢さが見て取れる。封筒の中身を見た地権者が、急ぎ銀行のATMで記帳したところ、未払分相当額がそっくり引き出されていた。そこで、事実確認と抗議をするために高崎市の納税課に電話を入れたが、高崎市の納税課では預金口座差し押さえの事前通知を出し、回収の期日を明記したと説明しているが、地権者はその通知書を見ていない、と言うより受け取っていなかった。そこで、再三にわたって納税課の担当職員に通知書を見せるよう要請したが、「再発行はできない」の一点張りで拒否したという。なぜ納税課は通知書を開示しないのか。「送った」「いや受け取っていない」という問題を解決する一番正確な確認方法が通知書の開示であるのは、誰の目から見ても明らかのはずだ。納税課の説明が本当であれば、コピーでも開示するのは当たり前のことだ。
このビル管理会社には数年前にも一度、同じく固定資産税の未払分を巡って、高崎市が、いきなりビル管理会社が賃貸で貸している一軒家の差押手続きをした、という苦い経験があった。そしてこの時も、今回と同様に差し押さえの事前通知を4回も送ったと言い張る市の職員は最後まで通知書をコピーですら開示しなかったが、実際にはビル管理会社には通知書を一通も送っていなかった事実が判明した結果、高崎市納税課の4名の幹部職員たちが東京新宿のビル管理会社の代表者を訪ねて来て深謝するという事態を招いていたのである。担当した職員だけでなく幹部職員たちはあまりにも無責任過ぎる。しかも、謝罪を受けた直後、未払分の税を即日で全額納付したにもかかわらず、高崎市が差し押さえの手続きを解除したのは、それから何年も後のことだった。
そうした、あまりにも杜撰な高崎市の対応を経験したビル管理会社だったから、今回の未払分のいきなりの回収という、同じ轍を踏むようなやり方に対してさらに怒りが増幅しているのは当然だろう。高崎市の納税課が事前の通知書を送ったという嘘を誤魔化すために、その通知書のコピーですら開示を拒んだ可能性は高い。
高崎市納税課には学習能力が全く無いのか、それとも税金さえ取れればいいという発想が根底にあるのか。そのどちらにしても高崎市の対応は納税者を蔑ろにしていると言わざるを得ない。
富岡賢治市長は、2019年4月の3回目の市長選挙では他に候補者がいなかったため無投票で当選したが、その年の10月に官製談合事件が発覚したことから、再発防止を目的に市役所総務部内にコンプライアンス室を設置し、事務を適正に執行するための助言や、法令順守を徹底するため職員の意識啓発などに取り組むとしたほか、富岡市長が2020年1~3月の給与を15%減額し、担当の副市長も同年1~2月の給与を10%減額するとした。しかし、水道局や納税課の対応を見ると、当時の反省が何も生かされていないことが分かる。
さらに言えば、ビル管理会社は高崎のビルを所有して以降、1階フロアーにスーパーカーを3台ほど展示していたが、地元の車マニアだけでなく他府県からも多く動員されていたことから、当時の松浦市長がスーパーカーの展示に大いに注目し、管理会社の代表者に「スーパーカーの展示でさらに高崎市を活性化してほしい」とアピールした経緯があった。そこで代表者は所有していたスーパーカー3台をほぼ3か月に一度、東京の車庫から移動させて入れ替える展示を行ってきた。また、先にも触れたようにビルの地下1階に入っていたライブハウスは、興行による収入の不安定さから、毎月賃料や光熱費等の支払を滞らせ続けていたが、これについても、ライブハウスを訪れる入場者により高崎氏が活性化するとの考えから、ライブハウスに対して寛容な対応を続けてきたという。このライブハウスに対する賃料の未収残高は総額で3億円以上になっている。これも、ライブハウスが無くなれば、高崎市に若者が集まらなくなることを考えた結果だった。また、民放の日本テレビで町おこしのキャンペーン企画でビルを放送する予定になっていたが、高崎市の対応が「ビル管理会社は地元の人ではないので」と言って非協力的だったことから、企画を中止したという。このように、ビル管理会社が高崎市の活性化に至極前向きに対応し続けてきた貢献度について高崎市は一定の配慮に欠けていると言わざるを得ない。
高崎市の水道局、そして過去の納税課の対応は、いずれもビル管理会社への配慮に欠けていると言わざるを得ず、一部にはビル管理会社がそもそも「県外から来た地権者だから冷たく扱っている」という指摘や、過去の納税課の失態で管理会社を逆恨みしたことから、高崎市の幹部が管理会社を目の敵にしているという可能性を口にする関係者もいるが、そのような冷遇対応が常態化しているなら、言語道断と言わざるを得ない。その姿勢は県外から住民登録した市民に対しても、トラブルが生じた際に同様の事態を招きかねないことも想像される。高崎市役所(職員)が、前橋市ではなく高崎市こそが群馬県を代表する都市と胸を張るつもりでいるのならば、行政の姿勢をしっかり見直すべきではないのか。(つづく)