これまで2回にわたって和解協議の模様を一部公開してきたが、これらのやり取りを見ても、鈴木のあくどさがいくつも見て取れる。西が協議の口火を切る形で鈴木に問いかけたのが、西に尾行を付けている話だった。鈴木は真っ向から否定しているが、西にしてみると、前年の9月頃に都内のホテルラウンジで鈴木に迫った株取引の利益分配の実行で、2人の間で取り決めていた西の志村化工株事件の執行猶予が解ける平成18年8月以降という時期であり、しかも西と青田のやり取りを傍らで聞いていた紀井氏からの通報となれば、間違いなく尾行され、不測の事態に巻き込まれることが想定された。しかし、鈴木は内通者がいると言う西に「それがどうした」と開き直るばかりで、その内通者が目の前で証言でもしない限り認めない、というありさまだった。実際に西を尾行したのは青田が差し向けた暴力団の構成員だったと思われる。そうであれば、その構成員が目の前に現れて「私が西を尾行しました」と証言することは無いと、鈴木は開き直ったに違いない。そして、そうした鈴木の姿勢が一貫して和解協議でのやり取りに現れている。

(写真:平成11年7月8日、A氏と西、鈴木が交わした合意書。A氏から株取引の買い支え資金を引き出すために鈴木は一人熱弁を振るった)

和解協議は、合意書の存在を鈴木が認め、主な銘柄だけでも10億を超える株取引で得た利益を鈴木が明らかにしたうえで、合意書に基づいて正当に分配するということを相互に確認することにあった。しかし、鈴木はどこまでも頑なだった。和解協議の3日前の平成18年10月13日にA氏が鈴木と会い、合意書を提示すると、鈴木は驚いた。最初の宝林株の取引で約170億円という利益を獲得した直後から鈴木は西を篭絡して、2人で利益を分け合う密約を交わすとともに、西に合意書の破棄を執拗に迫った。それは、西が自殺する直前に鈴木に送った書面にも具体的に書かれている。

【社長に対する借金返済を少なくするために私を利用したり、社長に多額な利益約400億円以上がバレないよう私の置かれている弱い立場を利用してウソの報告ばかりをさせてきた。私はもちろん貴殿がやって来た全ても絶対に許されることではない。合意書の件についても、私が英文で書かれた合意書を貴殿からもらっていたため、社長と3人で交わした合意書については処分する約束で常に貴殿に聞かれるたびに処分したことを伝えていた。そのため貴殿はずっと合意書は残っていないと信じていたはずだ。この合意書の件については、貴殿も何度も有無を私に確認し、今思えば本当にしつこかった】

そうした事実がありながら、和解協議での次のやり取りは、鈴木の開き直りの真骨頂だった。重複するが再度掲載する。

西   合意書があったからこそ、貴方の所に今、金がある。だからあんた、それに対してちゃんと答えるべき義務があるんじゃないの?

A氏  合意書を作成する時に、2人はいくら金があったのか、借金しかなかったはずだ。どれだけ株で金が出ているか、それを1回ずつ精算して3分の1ずつにするのが約束だろ、これ。2人ともチョンボしたら、取り分は1銭も無いんだぞ。鈴木さん、この文書、そんな無視出来るような文書じゃないぞ、これ。

鈴木  何でですか。俺は、でも社長ね、ジャス(宝林)のところに社長が金を出して、それを運用して儲かったのを3等分しましょうと、そうですよね。

A氏 そうだよ、合意書通り今後全ての株取引を1回ずつ清算して分配する約束だよ。これは今後3人で株をやるが、二人とも金がないので、私に金を都合してほしいという事でスタートしたんじゃないか。先週の金曜日に、これ宝林の分だけじゃないですかって、鈴木さんは言ったけど、宝林の分だけだったら何でこんな合意書を作成するんだ。これ見てよ、ちゃんと文章を。3人が直筆でサインして合意で作った合意書じゃないか。これは鈴木さんと西の懇願で、あの時株をやるからって、あなた方2人は借金だらけで金が無かったじゃないか。それで俺が元銭を出して、その後も随分買い支え資金を出してる、それでやった事じゃないですか。

鈴木  最初、ジャスで儲かった分を精算してんじゃないですか。

A氏  精算するって鈴木さん、貴方1回読みなさいよ。オークション(西の会社)に払う手数料10%残して90%を三等分するっていう話じゃない、鈴木さん。これ、よく読んでごらんよ鈴木さん、「今後一切の株取引」と明記されている。それは鈴木さん、それを無視するのはできないよ。誰にでも見てもらっていいけども、無視できるような文章と違うよ。

鈴木  幾ら儲けたって何で分かる訳? 幾ら儲けたって何で分かるんですか?

西に尾行を付けたことを頑なに否定するやり方が、ここでもそっくり出ている。そこで、A氏と西は、株取引で出た利益を鈴木が独り占めにしている事実を突きつける。紀井氏が明らかにした株取引の利益明細を書いた「確認書」を西が読み上げる。

(写真:紀井義弘氏作成の確認書。鈴木が仕掛けた銘柄と利益が具体的に記されている)

西  宝林も、エフアールも、ヒラボウも、ショウワも、エルメも、イッコウも全部持ってるよ。

鈴木  いや、そんなのは無いですよ。

A氏  後エルメが40、イッコウが20、それからスミコウって、これ何だ。

西   スミクラですね。

A氏  スミクラコウギョウ、で後エルメが20から25。

西   それ2回目の時。

A氏  その他の第3者割当で45くらいと、株券の残りが30くらいと。だから、皆さんの聞いてる話と鈴木さん、これ殆ど一緒なんだよなあ、金額が。それは鈴木さん、それを無視するのはちょっとおかしいよ。もしあれだったら、それ、誰にでも見てもらっていいけども、無視できるような文章と違うよ。

西   鈴木さん、言えって、もう。

鈴木  何言ってんだよ、とんでもないよ、こいつはもう本当に。

西   こいつじゃなくて原点に戻そうよ。

A氏  鈴木さん、彼(西)に言いたいのは、何を言いたいんだ。

鈴木  幾ら儲けたって何で分かる訳? 幾ら儲けたって何で分かるんですか。

同じ言葉を繰り返す鈴木は「オープンにして下さい、全部。誰が何を言ってるのか。じゃあ何でその本人を呼んじゃいけないんですか」と言って内通者を明かせと迫るが、西とA氏は最後には内通者が紀井氏であることを明かし、西に尾行がつくと教えてくれたのも紀井氏だった事実を明かした。そして西は鈴木がタックスヘイブンに用意したペーパーカンパニーを管理していた茂庭進氏の名前も出したが、鈴木は紀井氏も茂庭氏も内通者になる訳が無いと信じなかった。そのため、A氏と西は止むを得ず協議の場から紀井氏に電話することを了解したが、紀井氏が内通したことで鈴木の報復を極端に恐れていた点を鈴木に伝えると、鈴木は紀井氏が正直な話をしてくれれば紀井氏を責めることはしない、ということで電話をした。

鈴木からの電話に出た紀井氏は、当初は西と連絡を取ったことさえ否定したようだが、途中でA氏が電話を代わり、「紀井さんね、あの何かあるって、そういう事、さっきも言った様に、目一杯99%守る自信はあります。そんな事は心配しなくても良いです。紀井さんとさっき僕と電話で話しましたよね、話しましたね。間違いないですね。分かりました。紀井さん何も心配する事ないですよ」と話したことで、ようやく紀井氏は改めて電話を代わった鈴木に真実を語り出した。

紀井氏が、株取引で純利益の総額が約470億円に上っている事実を西に明かしている事実を知って、鈴木はようやく譲歩しだしたが、それでも利益は最初は50億円と言って、A氏と西にそれぞれ25億円ずつを支払う約束をした。一方西も紀井氏から利益の総額を聞いていながら、自分からその金額を口にしなかったために、鈴木が一方的に口にした50億円が途中で60億円に変わったが利益額ということで収まった。

西が鈴木に送った「遺書」には次のような件がある。

【私は本当の利益額を正直に伝えようとしなかったため、社長に貴殿の説明による利益額での判断をさせてしまい、あのような少ない金額の和解書になった。(略)貴殿は利益金額を騙し、嘘の金額で押し通した訳であり、決して許されることではない。その後も約束した和解書の金額を支払うこともせず、好き勝手に逃げ回っている】

和解協議の場で、鈴木は西が「合意書を破棄した」と嘘をついていただけでなく、株取引の真相について紀井氏や茂庭氏にも利益の確認をしたことで逆恨みしたのか、鈴木の西に対する言動はぞんざいな部分が多い。

鈴木 社長ね、色々オープンにして、社長とまあ話するのは良いです。ただそこらへんを本当に明確にして、俺ももう言ったから、そういうの(紀井氏への報復)はしないから、それでもし彼(紀井)が言ってる様に俺が幾ら稼いでると、だったら俺も命落としてもいいよ、社長。

A氏 本当だね、本当だね、よし分かった。そこまで言うんだったら、もうそれでハッキリさせよう。

西  俺もいいよ。

鈴木 お前はいいよ、お前の話を聞いてもしょうがない。

西    その言い方はないだろう。

鈴木 じゃあ、もう命落とせば良いじゃないか、今。そんだけの腹あるのか、お前。

(写真:和解書。鈴木は提示された和解書を何度も読み返して確認した。A氏が「文言は修正しますよ」と言うと、鈴木は「いえ、問題ありません」と言いつつ金額欄に50億円と書いた後に署名指印した。)

裁判で「和解書」を無効にした品田裁判長は、鈴木が「強迫された」とか「事実上監禁された状況で和解書に署名しなければ、その場を切り抜けることができなかった」と主張し、平林と長谷川の両弁護人が「心裡留保」と強調したことを採用したが、A氏側が証拠として提出した和解協議の音源は明確ではない部分があったが、西の録音したテープには全てが入っていた。鈴木側の主張が荒唐無稽であることが分かる。何より、強迫されたという鈴木が強迫したという西に「命落とせば良いじゃないか、今」と言っているやり取りの、どこに強迫や心裡留保があるのか。

西は自ら招いた種とはいえ、宝林株で得た巨額の利益に目がくらんで鈴木の術中にはまってしまった。さらに合意書の破棄を約束して、鈴木から複数回で10億円という礼金を受け取り、宝林株の利益分配ということで別に30億円を受けっていたことが判明している。さらに、A氏から継続的に支援してもらっていた買い支え資金を流用していた事実も判明しているが、こうした事実を踏まえると、西が鈴木に完全に支配されていた状況が窺えるのだ。

【私は貴殿の汚いやり方をやっと気づいた。貴殿は、どんな時でも、自分が弱い立場にいる時、あらゆる事を言ってでも助けを乞うが、自分が強い立場になった時には、まず一番重要な立場にいて、貴殿のパートナーに近い人間や色々貴殿の秘密を知っている人間を追い落とし、弱くさせながら自分の思うようにコントロールするやり方をずっとしてきている】

西が鈴木義彦に送った「遺書」に綴られたこの文面が明らかにしているように、鈴木が人付き合いで見せるあくどさを象徴するようなところだ。西は「遺書」で鈴木に次のように訴えている。

【貴殿が真剣に反省しなければいけないことが沢山ある。まず貴殿のずるい考え方や、人間としてやってはいけない裏切り、社長と私、貴殿の三人で合意したいくつかの約束事に関する裏切行為、私の浅はかな考えから、貴殿の狡賢しさにコントロールされ、社長に大変な実害や信用を傷つけた件、社長を利用することによって与えた大きなダメージなど、貴殿と私で行った社長への大きな裏切りを考えたら、私の一命をもっても償える事ではない】

しかし、西の、この悲痛な訴えは今も鈴木には伝わっているようには見えず、鈴木は今もって具体的な対応をしていない。それどころか、相も変わらず所在を不明にしながら、鈴木の犯罪疑惑を明らかにしてきたネット情報誌に対して記事削除の申立などという嫌がらせばかり行っているのだから始末に負えない。

鈴木のあくどさには際限がなく、全てが強欲さに繋がっているようにしか見えない。鈴木と同様に西は「合意書」に基づいた株取引を実行して以降、完全に鈴木のあくどさに飲み込まれてA氏を裏切る状況を作ってしまった。志村化工株の相場操縦事件で鈴木の罪まで被って有罪判決を受けながら、当の鈴木に裏切られ切り捨てられた。株取引の利益の分配で香港に行った際には、鈴木の代理人と称するTamという人物に勧められた一杯のワインで瀕死の状況に陥り、あるいは東京では尾行をされたために不測の事態に巻き込まれるのではないかと不安と恐怖にも苛まされた。そうした鈴木から受ける圧力に抗しきれず、西は命を絶ったが、それでも最後にはA氏に書き送った「遺書」の中で、A氏に対する最大の裏切りに対する罪を詫びている。

【(社長に)お会いした後、社長に大きなチャンスや沢山の協力を与えて戴きながら、私の偏った生き方、考え方から、いつもつじつま合わせや自分流の考え方ばかり主張して押し通してしまい、社長の人生を台無しにしてしまいました。(略)今まで社長に資金を依頼しても一度も断られたことは無く、人から借りてでも私にだけは必ず用立ててくださいました。私はそこまでして用意して下さったお金を投資に回して、成功できることが沢山あったにもかかわらず詰めの甘さや人を信じすぎて、最後にいつも大きな失敗をしたり、裏切られてばかりで本当に申し訳ありませんでした】

【私が行った数々の失敗について何一つ言い訳ができることではありません。一命を絶つことで許されることは一つもありません。お借りしたり投資して戴いたお金につきましても天文学的な数字(323億円)です。(略)しかしあらゆることが上手くいかない状況ではけじめをつけるしか他に道が無いのです。(略)ただただ自分に逃げているだけで本当に無責任なことです】

【色々なことを自分の中で最大限にこなそうと努力だけはしても、いつも相手の方が一枚も二枚も上手で最後にやられてばかりです。(略)社長に対しても本当にご迷惑ばかりおかけして、何一つお役に立つことができませんでした。どうか、どうかお許しください】

西の選択をどうこう言う立場にはないが、鈴木は裁判で西を最大限に悪用してA氏を誹謗中傷した。同じようにA氏を裏切ったにしても、鈴木のあくどさは歴然としていることが誰の目にも明らかである。

鈴木の所業を許してはいけない。鈴木が自身の強欲から数多くの人間を犠牲にしているという自覚を持ち得ないならば、そして、その罪を反省し謝罪する気もないならば、今後はそれを実感させることしか方法はない。西はA氏と鈴木以外にも鈴木の実父徳太郎や青田など約20名に遺書を送っているが、次回で取り上げる。(以下次号)