鈴木義彦が海外に隠匿している1000億円以上に上る資金は大部分が裏金である。平成11年7月8日にA氏と西義輝、鈴木の3人が交わした合意書に基づいて行われた株取引は、判明しているだけで平成18年10月までの間に少なくとも20銘柄を超えて繰り返され、それぞれの株取引で獲得された純利益を鈴木が海外に流出させ、さらにオフショアにあるプライベートバンクに移動させて蓄積したもので、その総額は約470億円に達していた。
過去を振り返れば、鈴木は平成10年5月31日に親和銀行不正融資事件で逮捕されたが、鈴木が同行から引き出した融資金のうち53億円が直接の逮捕容疑になったものの、実際には100億円以上が不良債権として表面化した。親和銀行は事件で逮捕された辻田徹頭取(当時)によるワンマン経営等により不良債権が経営を圧迫し始めたと評されたが、地銀の融資限度額を超える融資を引き出した鈴木(エフアール)が同行を経営危機に追い込む全ての原因を作ったのは間違いなく、鈴木は自身の犯罪に留まらず地域金融の環境を根底から揺るがしたのだ。親和銀行はその後、金融庁の主導による九州県内の地銀の統廃合が繰り返される中で、福岡銀行を軸として九州銀行、熊本銀行、十八銀行などと株式移転等により経営統合を繰り返してきた。かつての親和銀行は今は銀行名だけが残っているに過ぎないが、これは鈴木の後先を考えない悪事の結果と言わざるを得ない。地銀の大規模な統廃合にも税金が無駄に使われている。鈴木のような悪党が許されたら日本の秩序は崩壊する。
ここで重要なことは、鈴木は利益の所有者ではなく、ただ管理の代行者であったに過ぎないから横領したということである。しかも、鈴木は合意書に違反して、それぞれの株取引の実態(銘柄選択や取引経過を含む収支)をA氏に明らかにしなかったばかりか、利益を独り占め(横領)したので、これも合意書に違反したことになるから利益の分配を受ける権利を失っていた。
鈴木が海外に隠匿している1000億円以上の資金、年間で100億円前後の利回りを生み出すこの資金は誰のものか? これはあくまで合意書が前提となって生み出されたものだから、西は西で合意書に違反しており、その後自殺して今はなく、鈴木もまた利益分配を受け取る権利がないので、その資金を管理し使途の権限を有しているのはA氏と資金支援に関わったA氏の友人しかいない。それが本筋の道理である。そのような前提に立って、関係者が次のように言う。
「鈴木義彦の隠匿資金は1000億円以上の規模になっているとみられるが、これはいずれ事件化して全てが国庫が没収される可能性が高い。そうであるなら、折からコロナ禍や相次ぐ自然災害で疲弊している国民が大変な状況を乗り越えるための原資として使うことを目的にした基金や財団を設立する陳情(キャンペーン)を政府にしてはどうか。実は、この発想はずいぶん前からA氏が言っていることで、A氏は確かに鈴木の裏切りにあってこの20年近く精神的にも物質的にも塗炭の苦しみを味わってきた。A氏自身は知人から借り受けた資金を確保できれば、それ以外は例えば基金や財団を作って有意義な使い方をするための原資にしてはどうか、という考えを身近な関係者たちに話してきた経緯がある。A氏とは、そういう人間なんだが、たまたま今年になってからコロナウイルスが急激に蔓延して、公務員は国に守られているが、仕事にあぶれたり、店や工場を閉じなければならなくなって日々の最低の生活すらままならない人たちが数多くいることに心を痛めて、その救済組織(財団)を作ってはどうかという話をしている。とても素晴らしい考えだと思う」
救済組織(財団)の設立ともなれば日本の企業や篤志家たちからも義援金を募りやすい環境ができるだろうし、それによってコロナ禍を大きなチャンスに変えるきっかけになるのではないかという。また世界に目を向けても紛争が継続的、断続的に起きている地域で大量に発生した難民を救済するために国連や世界規模で活動する特定非営利法人(NPO)が食料や医療、生活物資等で支援を続けているが、ノーベル財団が2020年のノーベル平和賞に「国連食糧計画(国連WFP)」を選んだのは快挙で、こうした活動に対しても様々な支援や協力をすることも基金や財団の事業として視野に置くことができるだろう。当然、基金や財団を支援した企業や篤志家に対しては歴史に永久に記録が残るものとして参加する誰にとっても誇りとなるのではないか。
鈴木が海外に隠匿している資金が何故鈴木のものではないか、という点をさらに明らかにするために鈴木と西が実行した株取引について振り返ってみる。株取引の最初の銘柄となったのは「宝林」だったが、これは証券会社の課長だった平池某が、宝林の筆頭株主が持ち株800万株を売りたがっているという情報を西義輝に持ち込んだことがきっかけになっている。折から鈴木は親和銀行を巡る不正融資事件で警視庁に逮捕され刑事被告人の身分だったから、自由に行動できる状況にはなく、まして鈴木が創業したエフアールは宝飾品の販売を手がける業態で不正融資を受ける当事者でもあったから、同業である宝林株の売買交渉の場においそれと関われる状況にはなかった。それゆえ西が筆頭株主であるロレンツィ側の代理人や弁護士との交渉に単独で臨み、1株37円で取得する成果をもたらした。さらに宝林株の取得資金約3億円についても、西がA氏に懇願して出してもらい、平成11年5月31日までに契約が成立した経緯になっている。鈴木のあくどさは、こうした株取引のきっかけとなる宝林株取得のお膳立てを全て西が取り仕切りながら、実際に契約の現場にフュージョン社の人間を立ち会わせて宝林の全株を受け取らせ、さらに金融庁に提出する大量保有報告書も鈴木が手配した杉原正芳弁護士の手によって取得資金の出所を紀井氏の名前で作成されたことで、宝林株800万株を鈴木が掌中に収めてしまったことにある。翌6月1日に提出された大量保有報告書に記載した名義人3社は、もちろん鈴木がフュージョン社に用意させたペーパーカンパニーだった。それだけではない、鈴木は宝林株を売って利益を出すための要員として紀井という元証券マンまで用意して利益を独占的に保全する手はずを整えていたのだ。大量保有報告書の作成に関わった杉原は、資金の出所を「紀井義弘からの借入」と虚偽の記載をしてA氏が3億円を出した事実を消してしまった。本来であれば西が主導権を握っているべきだったが、鈴木の口車に乗ったために西が宝林株の所有権をどこまで主張できたか分からない状況を鈴木は作っていったのである。
しかし、鈴木と西が証券市場で宝林株を高値で売り抜けようとしても、株価を高値に誘導することができず、また、そのための資金を継続的に調達することも難しい状況からA氏に鈴木と西が懇願することになり、結果、A氏が資金支援をする合意書に至った。
株取引を開始した当初から、というよりも鈴木は西が宝林株を取得した当初から利益が出た場合にそれを独占して、仮に分配するにしても鈴木が自由に差配できるという思惑を秘めてA氏に資金支援を持ち掛けた、というのが実態で、たとえ宝林株の売り抜けに失敗して損失が出たとしても、その事実を隠してA氏に資金支援を継続させようとしたことも思惑にあったことが窺える。
ところが、A氏からの継続的な資金支援を得て、宝林株の売りは最終的に160億円前後という予想外の利益をもたらした。そうなると、鈴木にとって邪魔になるのが合意書の存在だった。鈴木は、自分一人ではA氏を騙すことは不可能であると自覚していたに違いない。そこでA氏を騙し続けるために、A氏が信用していた西を使うのが最適と考え西の篭絡にかかった。そして西は、まんまと鈴木の口車に乗せられてしまった。「A社長を外して利益を折半しよう」と鈴木は西に持ち掛けたが、利益折半という言葉は鈴木が仲間を誘い込むときの口癖で、現に紀井氏を誘い込んだ時にも鈴木はその言葉を口にしていた。株取引は合意書が前提になっており、合意書の当事者はA氏と西、鈴木の3人だから、鈴木がA氏にはK氏の存在を隠していたことで、それだけでも鈴木の思惑の一端が窺える。
利益の蓄積は、鈴木が株取引を開始するに当たって取引のあったフュージョン社に指示して用意させた外資系投資会社を装う複数のペーパーカンパニーの名義で実行されてきた。鈴木はそれらの投資会社と契約を交わしたコンサルタントと称して「投資会社から手数料を受け取っている」と裁判でも証言したが、鈴木がその収入を日本の税務当局に申告している形跡は見当たらない。本来であれば株取引を実行してきた経過期間中の年度ごとに国税局に申告して然るべき税金を各人が納めることになるはずだが、鈴木はその前提を覆して利益の大部分を海外に流出させ隠匿してしまったのである。
周知のとおり、鈴木が国内外に隠匿している資金は、犯罪収益であり、脱税で蓄えた資金である事実は揺るがない。ところが鈴木は外資系投資会社のコンサルタントと身分を偽装して、独占した利益の享受を投資会社から得る報酬にすり替えた。利益を密かに海外に流出させてプライベートバンクに溜め込むために用意(取得)した実体のないペーパーカンパニーのオーナーは鈴木であるのに、第三者である投資会社から業務を請け負い報酬を得るなどという話のどこに真実味があるというのか。しかも、法律の網を潜り抜けたところに安住している、そんな理不尽なことが現実に今までまかり通ってきたのだ。
しかしそれも一旦綻びが生ずれば、鈴木を巡る環境はあっという間に激変することが鈴木には十分に分かっているはずだが、度の過ぎる強欲のために全てを失うことになる。それでもA氏への債務が依然として残る状況は変わらない。鈴木にしろ、青田、長谷川、平林、杉原という当事者は、それぞれの考えで行動しているのだろうが、その考えに大きな過ちがあれば、間違いなく家族や身内を巻き込む深刻な事態がやってくる。それでも当事者たちが今も金を握ってさえいれば他は関係ないと考えているのであれば、鈴木は本当に哀れな人間だ。隠匿資金が巨額であればあるほど、鈴木が日常で享受する資金も豊かになるから、さらに執着するのかもしれないが、そんな日々が死ぬまで続くわけはない。この事件は、過去に起きた事件等に比べ犯罪収益が1000億円以上で死者の数も10人ほどという遥に大規模な事件として誰もが成り行きに注目しているだけに、鈴木の動向は常に誰かに監視されているということを鈴木自身は認識するべきであって、今後は歴史に記録され、風化することなど有り得ないのである。 (以下次号)